ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート

Vineyard Landscape of Piedmont: Langhe-Roero and Monferrato

  • イタリア
  • 登録年:2014年
  • 登録基準:文化遺産(iii)(v)
  • 資産面積:10,789ha
  • バッファー・ゾーン:76,249ha
世界遺産「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート」、バローロのブドウ園
世界遺産「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート」、バローロのブドウ園
世界遺産「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート」、グリンザーネ・カヴール城
世界遺産「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート」、グリンザーネ・カヴール城 (C) Lm 1909
世界遺産「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート」、カステルヌオーヴォ・カルチェーアの街並み。遠くに見える雪山はモンテ・ローザ
世界遺産「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート」、カステルヌオーヴォ・カルチェーアの街並み。遠くに見える雪山はモンテ・ローザ (C) Gerald Smith
世界遺産「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート」、カネッリの「地下大聖堂」カッテドラーリ・ソッテラーニーの地下熟成セラー・インフェルノット
世界遺産「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート」、カネッリの「地下大聖堂」カッテドラーリ・ソッテラーニーの地下熟成セラー・インフェルノット (C) rukko

■世界遺産概要

「ワインの王」バローロ、「ワインの女王」バルバレスコ、スプマンテの最高峰アスティといったイタリアを代表するワインを生産するイタリア北西部ピエモンテ州のランゲ、ロエロ、モンフェッラート。本遺産ではその中でもポー川とアペニン山脈の間に広がるバローロのランガ、グリンザーネ・カヴール城、バルバレスコの丘、ニッツァ・モンフェッラートとバルベーラ、カネッリとアスティ・スプマンテ、インフェルノットのモンフェッラートという6地域の町々やブドウ畑を構成資産としている。

○資産の歴史

ブドウは西アジアの原産だが、イタリアの先住民族であったケルト人やエトルリア人はブドウやワインを産品として扱っており、ピエモンテでは紀元前5世紀のブドウの花粉が発見されている。ローマ時代に大規模なブドウ栽培が行われ、ネッビオーロ種の祖先となる品種が導入された。聖餐(せいさん。最後の晩餐)でイエスが「私の血である」とワインを十二使徒に分け与えた伝説もあり、中世にキリスト教が普及すると教会や修道会は積極的にブドウ園の経営を行った。丘の斜面にブドウ園、丘の頂きに城が築かれ、丘の上部にロマネスク様式の教会堂とともに村が形成され、村と村を結ぶ低地の要衝には市場となる都市が建設された。今日のピエモンテの文化的景観とワイン生産のベースはこうして古代・中世に築かれた。

14世紀からルネサンスがはじまる近世にかけて、都市貿易が活性化して裕福な中産階級がワイン生産を引き継いだ。この時代にネッビオーロ、バルベーラ、ランブルスカといった品種が持ち込まれた。16~17世紀に入ると城を中心に村や町が再編され、17~18世紀には農場にルネサンスやバロック様式のヴィッラ(貴族や農場主の別荘または地方の邸宅)が建設された。19世紀にランゲやロエロ、モンフェッラートのワイン生産量は急増し、一部では大農園から家族経営の小農園へ分割された。また、この時期に先進的なフランスのワイン生産モデルを導入し、高品質化や長期熟成・ガラス瓶の採用などを進めて高付加価値化に成功した。

1860年代にはフランス・シャンパーニュ地方からシャンパンの製法が持ち込まれ、微発泡のスパークリング・ワイン「スプマンテ」が誕生した。イタリアのワインは原産地名称保護制度に従って上からD.O.C.G.、D.O.C.、I.G.T.、その他に分類されているが、この地域のワインの品質の高さはD.O.C.G.、D.O.C.のワインが80%に及ぶという事実に表れている。

○資産の内容

「バローロのランガ」は「ワインの王、王のワイン」と讃えられるネッビオーロ種のD.O.C.G.赤ワイン・バローロの産地で、バローロやセッラルンガ・ダルバといったコムーネ(自治体)を含んでいる。周囲は一面のブドウ畑で、方角や起伏などを参考に慎重に区画されており、ブドウ栽培に適さないわずかな場所に穀物の畑や森が見られる。セッラルンガ・ダルバはこの地方の典型的な集落で、丘の上に立つ城塞を中心に同心円状に通りが走り、その周囲に住宅が展開している。セッラルンガ・ダルバ城は14世紀半ばの建設で、同時代の城としてはもっとも保存状態のよいものとなっている。周辺には古くから孤立した農場も存在し、歴史ある建造物が残されている。

「グリンザーネ・カヴール城」は伯爵家であるカヴール家の領地だったグリンザーネ・カヴールの町の城とブドウ園が登録されている。ブドウ生産とワイン醸造について先駆的な試みを行った場所で、ピエモンテのワイン生産の原動力となった。一例がフランスのワイン製法の導入で、一帯のワインの高品質化に貢献した。城は13世紀、塔は14世紀の建設で、ルネサンス様式のヴィッラが隣接している。また、周辺は最高級のトリュフである白トリュフの名産地でもある。

「バルバレスコの丘」は「ワインの女王」と讃えられるネッビオーロ種のD.O.C.G.赤ワイン・バルバレスコの産地で、バルバレスコやネイヴェといったコムーネで構成される。大地は粘土と泥灰土、保水性の高い砂岩からなり、ネッビオーロ種の絶好の土壌であるため周囲はほぼすべてブドウ畑となっている。高さ約30mを誇るバルバレスコの塔(ヴィスコンティ塔)は14世紀に築かれた角楼で、一帯のランドマークとなっている。ネイヴェはセッラルンガ・ダルバによく似た集落で、丘の上の城塞を中心に同心円状に街が展開している。ただ、現在は城塞が撤去され、時計塔のみが残されている。

「ニッツァ・モンフェッラートとバルベーラ」はバルベーラ種のD.O.C.G.赤ワインであるバルベーラ・ダスティなどの産地で、カステルヌオーヴォ・カルチェーア、ヴィンキオ、ヴァーリオ・セッラなどのコムーネと、市場としても栄えた古都ニッツァ・モンフェッラートの中心部が登録されている。バルベーラ種のワインの生産は少なくとも500年前から行われており、この地域ではこの歴史ある赤ワインと近代から生産がはじまったスプマンテを生産している。ニッツァ・モンフェッラートは人口1万人を超える一帯の中心都市で、モンフェッラートの農業および商業の中心を担った。14世紀に築かれた市庁舎と市民の塔、14世紀創建で18世紀にバロック様式で改修されたサン・シーロ教会をはじめ歴史的な建物が多く、ワインの市場や倉庫・セラーも数多い。カステルヌオーヴォ・カルチェーアは非常に古い町で、ケルトやローマの時代から集落があった。やはり城を中心に発達した城下町だが、城は17世紀に破壊されて城門と塔のみが残されている。

「カネッリとアスティ・スプマンテ」は白マスカットの一種であるモスカート・ビアンコ種から作られたスプマンテの名産地で、D.O.C.G.スプマンテであるモスカート・ダスティやアスティなどで知られる。石灰岩・泥灰土・砂岩からなる白みがかった土壌とシャンパンの製法が出合うことで生まれたスプマンテで、一帯には12~14度で発酵させるための地下熟成セラー・インフェルノットをはじめ、独特のワイン生産・貯蔵・取引施設が存在する。中心となるコムーネはカネッリで、ローマ時代にはすでにブドウ栽培が行われていたという。各地にインフェルノットがあるが、地下32mに築かれた1867年創業の老舗ワイナリー・コントラットの「地下大聖堂」カッテドラーリ・ソッテラーニーのセラーは名高い。他にも12世紀創建で17~18世紀にバロック様式で改築されたサン・トッマーゾ教区教会など歴史ある建物が少なくない。カロッソはカロッソ城を中心とした町で、やはりモスカート・ビアンコ種の名産地として知られる。

「インフェルノットのモンフェッラート」はバルベーラ種のD.O.C.G.赤ワインであるバルベーラ・デル・モンフェッラートなどの産地で、チェッラ・モンテ、フラッシネッロ・モンフェッラート、ヴィニャーレ・モンフェッラート、カマーニャ・モンフェッラートなどのコムーネが含まれている。この地域は穀物栽培も比較的盛んで、ブドウとの混合農業が主流となっている。また、レッチェ石と呼ばれる石灰岩や砂岩の切石の産地でもあり、こうした石を削り出して築いた地下熟成セラー・インフェルノットを利用した熟成が行われている。チェッラ・モンテというコムーネの「チェッラ」はセラーを意味し、インフェルノットを表現しているといわれる(異説あり)。チェッラ・モンテの旧・ヴォルタ宮殿、現・ピエトラ・ダ・カントーネのエコミュージアムではレッチェ石の採石場とインフェルノットを公開している。この旧・宮殿は17世紀に建設されたバロック建築で、レッチェ石製のロッジア(柱廊装飾)が名高い。フラッシネッロ・モンフェッラートは11世紀の建設と伝わるフラッシネッロ城を中心した町で、郊外にはローマ時代の創建と伝わるリニャーノ城がたたずんでいる。

■構成資産

○バローロのランガ

○グリンザーネ・カヴール城

○バルバレスコの丘

○ニッツァ・モンフェッラートとバルベーラ

○カネッリとアスティ・スプマンテ

○インフェルノットのモンフェッラート

■顕著な普遍的価値

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

ピエモンテのブドウ園の文化的景観は古代から長い歴史を持ち、現在まで継続的に改良され、環境や時代に適応したワイン生産とその伝統文化に関する稀有な証拠を提示している。それらは社会・地域・都市といった領域における包括的な証明であり、持続可能な経済構造の確立を示すものでもある。

○登録基準(v)=伝統集落や環境利用の顕著な例

ランゲ、ロエロとモンフェッラートのブドウ園は、人間と自然環境の相互作用を示す顕著な例である。土壌と気候に最適化したブドウ品種の選定・作成から栽培・収穫・熟成の技術まで、ブドウ栽培とワイン製造の技術と知識は長い歴史を持ち、国際的な名声を得て世界に影響を与えた。その文化的景観はすばらしい美的価値を持ち、ヨーロッパのブドウ園を中心とした農業景観の典型となっている。

■完全性

ピエモンテ州にはワイン生産を行う数多くのコムーネが存在するが、構成資産の選択は適切で、ワイン生産地域の文化・住宅・建築・環境・生産多様性が余す所なく含まれており、何世紀にもわたって築かれてきた畑や村、セラーや倉庫、城や砦、教会や修道院、市場や宮殿等々、ブドウ栽培とワイン製造に関するすべての技術的・社会的プロセスが適切に示されている。文化遺産はもちろん景観も法的保護下にあり、周辺にバッファー・ゾーンも設置されている。

■真正性

ブドウ栽培とワイン製造のほとんどのプロセスは伝統的手法で行われており、ワインを中心とした社会構造や伝統文化は維持されており、景観や建造物・土壌も保たれている。もっとも古い建造物は10~14世紀のもので、ロマネスク様式の教会や城はよく保存されており、村と都市・道路や通路・農場区画といった地理的構造も保たれている。ピエモンテのブドウ園がもっとも調和のとれた、もっとも一貫した理想的な田園風景のひとつであることに疑いはない。

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