ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会

Wooden Tserkvas of the Carpathian Region in Poland and Ukraine

  • ウクライナ/ポーランド
  • 登録年:2013年
  • 登録基準:文化遺産(iii)(iv)
  • 資産面積:7.03ha
  • バッファー・ゾーン:92.73ha
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、ドロホブィチの聖ゲオルギオス聖堂
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、ドロホブィチの聖ゲオルギオス聖堂 (C) Oleksandr Malyon
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、ウジョクの天使ミカエル集合聖堂
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、ウジョクの天使ミカエル集合聖堂 (C) Elke Wetzig
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、ホティニエツの生神女誕生聖堂
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、ホティニエツの生神女誕生聖堂
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、クフィアトンの聖パラスケヴァ聖堂
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、クフィアトンの聖パラスケヴァ聖堂
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、オフツァリの生神女庇護聖堂
世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」、オフツァリの生神女庇護聖堂 (C) Andrzej Otrębski

■世界遺産概要

ポーランドとウクライナにまたがるカルパチア山脈に点在する16~19世紀のログハウス(丸太=ログで築いた建築物)によるツェルクヴァ(教会堂)を登録した世界遺産。構成資産としてウクライナの8件とポーランドの8件の計16件が登録されている。

○資産の歴史と内容

ポーランドとウクライナのカルパチア山脈周辺には500を超える木造のツェルクヴァが現存し、最古のものは15世紀にさかのぼる。コミュニティごとに教派を選択していたため正教会とカトリック(東方典礼カトリック教会)のツェルクヴァが混在していた。山中の小さな村々が巨大な石造教会堂を建てることはできず、地元の木造建築技術を流用してゴシック様式などの教会建築を再現した。基本的にツェルクヴァは石の基礎の上に築かれた礎石建物で、針葉樹やオークの丸太を横に寝かせて積み上げたり(横ログ)、縦に並べたりして(縦ログ)壁を築いて屋根を架けていた(壁構造)。この地方のツェルクヴァはおおよそ以下5つの型に分けられる。

前期ハールィチ型はウクライナのハールィチ地方で16世紀頃広がった最古のタイプで、100棟以上のツェルクヴァが現存している。ナルテックス(拝廊)・身廊・至聖所という3パートが直線上に並んでおり、これがツェルクヴァの基本形となる。至聖所の手前にはイコノスタシス(聖障)と呼ばれる衝立があり、人々が礼拝を行う外陣(げじん)と聖域である内陣を分けている。1層目に全体を覆うスカート状の広い庇や屋根を広げ、ナルテックスは2層のピラミッド形の屋根、身廊は2~4層で高いランタン塔(採光用の塔)を持ち、至聖所も2~4層の多層建築で鐘楼を兼ねることもある。頂部は小型のドームやゴシック様式のピナクル(ゴシック様式の小尖塔)などの装飾(フィニアル)で飾られている。構成資産の中ではポテリチの聖神降臨聖堂(ウクライナ)、ロハティンの聖神降臨聖堂(ウクライナ)、ラドルシュの聖パラスケヴァ聖堂(ポーランド)がこのタイプだ。

後期ハールィチ型は17世紀に盛んに築かれたタイプで、この地域に250棟以上が残っている。ルネサンス様式を思わせる巨大な多角形ドームが特徴で、ナルテックス・身廊・至聖所それぞれの屋根を飾っている。また、内部装飾にはバロック様式が取り入れられており、特にイコノスタシスは華麗に仕上げられている。構成資産の中ではドロホブィチの聖ゲオルギオス聖堂(ウクライナ)、ジョウクヴァの聖三位一体聖堂(ウクライナ)、ホティニエツの生神女誕生聖堂(ポーランド)がこのタイプだ。

ボイコ型は地域に70棟ほどが残されており、18世紀頃に建てられたものが多い。ナルテックス・身廊・至聖所の頂部が独特で、アジアのパゴダ(ストゥーパ)や多層塔を思わせる多層屋根を持つ。構成資産ではマトキフの生神女集会聖堂(ウクライナ)、ウジョクの天使ミカエル集合聖堂(ウクライナ)、スモルニクの大天使聖ミカエル聖堂(ポーランド)がこれにあたる。

フツル型は19世紀頃の比較的新しいタイプで、ルテニア地方の伝統様式の影響を受けており、約150棟が現存する。ナルテックス・身廊・至聖所の身廊から左右に翼廊を張り出させることでギリシア十字式の平面プランを形成している。屋根の形はさまざまで、尖塔やドーム、切妻屋根などを冠している。構成資産のニジニー・ヴァルビシュの生神女誕生聖堂(ウクライナ)とヤシニアの主昇天聖堂(ウクライナ)がこのタイプだ。

レムコ型はポーランド南部の木造教会堂の典型的な形で、70棟ほどが残っている。ナルテックスの上に非常に高い鐘楼を配し、身廊と至聖所も多層で高く、3つの塔が並ぶような外観になっている。それぞれの頂部は小さなオニオン・ドームが複数連なっている。構成資産の中ではブルナルィ・ヴィジネの大天使聖ミカエル聖堂(ポーランド)、クフィアトンの聖パラスケヴァ聖堂(ポーランド)、オフツァリの生神女庇護聖堂(ポーランド)、ポブロジニクの使徒小ヤコブ聖堂(ポーランド)、トゥジャンスクの大天使聖ミカエル聖堂(ポーランド)がこれにあたる。

構成資産でもっとも古いツェルクヴァはポテリチの聖神降臨聖堂で1502年、もっとも新しいツェルクヴァはトゥジャンスクの大天使聖ミカエル聖堂で1801~03年の建設とされる。

■構成資産

○ドロホブィチの聖ゲオルギオス聖堂(ウクライナ)

○マトキフの生神女集会聖堂(ウクライナ)

○ニジニー・ヴァルビシュの生神女誕生聖堂(ウクライナ)

○ポテリチの聖神降臨聖堂(ウクライナ)

○ロハティンの聖神降臨聖堂(ウクライナ)

○ウジョクの天使ミカエル集合聖堂(ウクライナ)

○ヤシニアの主昇天聖堂(ウクライナ)

○ジョウクヴァの聖三位一体聖堂(ウクライナ)

○ブルナルィ・ヴィジネの大天使聖ミカエル聖堂(ポーランド)

○ホティニエツの生神女誕生聖堂(ポーランド)

○クフィアトンの聖パラスケヴァ聖堂(ポーランド)

○オフツァリの生神女庇護聖堂(ポーランド)

○ポブロジニクの使徒小ヤコブ聖堂(ポーランド)

○ラドルシュの聖パラスケヴァ聖堂(ポーランド)

○スモルニクの大天使聖ミカエル聖堂(ポーランド)

○トゥジャンスクの大天使聖ミカエル聖堂(ポーランド)

■顕著な普遍的価値

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

ツェルクヴァは正教会の建築様式と地域の様式が融合した教会建築の伝統に関する際立った例である。構造・デザイン・装飾はカルパチアのそれぞれのコミュニティの文化的伝統が反映されており、伝統に関連した象徴や神聖性の多彩さを示している。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

ツェルクヴァは地域の文化的伝統が正教会の伝統建築に反映されて16~19世紀にかけて発達した。カルパチア地方の建築設計の重要な歴史的段階を示すログハウスの顕著な例である。

■完全性

教会堂はもちろん壁や門・鐘楼・墓地・二次的な建造物など顕著な普遍的価値を表現するために必要な要素はすべて含まれており、開発や放棄などの脅威も存在しない。資産の完全性は十分で、教会堂からの、あるいは教会堂を含んだ景観もよく維持されているが、駐車場の場所について注意を払う必要がある。植林された木々を伴う周壁やフェンスは教会の領域やランドマークをハッキリと区分している。ウクライナの物件は2000年、ポーランドは2003年に国の法的保護下に置かれて最高レベルで保護されている。

■真正性

構成資産のいずれも場所・配置・使用・機能といった点で本物で、13のツェルクヴァについては現在も教会堂として使用されており、他の3件(ドロホブィチ、ロハティン、ラドルシュ)についても博物館として保全されている。基礎の木材については長年にわたって伝統的な工法・素材で修復されており、20~30年ごとに交換が必要な屋根や外装壁の木材についても適切に処理されている。こうした伝統技術の継承は真正性を維持するために不可欠な要素である。ほとんどのツェルクヴァは独自のドアと施錠装置を維持し、リンテル(まぐさ石)には建設日と大工の名前が記されており、真正性を担保している。

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