ヴィースの巡礼教会

Pilgrimage Church of Wies

  • ドイツ
  • 登録年:1983年、2011年軽微な変更
  • 登録基準:文化遺産(i)(iii)
  • 資産面積:0.1ha
  • バッファー・ゾーン:8.4ha
上空から見た世界遺産「ヴィースの巡礼教会」
上空から見た世界遺産「ヴィースの巡礼教会」。周囲には牧場が広がっている (C) HaSe
北から眺めた世界遺産「ヴィースの巡礼教会」。右からナルテックス、身廊、内陣、塔、聖職者の家
北から眺めた世界遺産「ヴィースの巡礼教会」。右からナルテックス、身廊、内陣、塔、聖職者の家
世界遺産「ヴィースの巡礼教会」、身廊から眺めた内陣。入口右の柱に取り付けられているのが修道院長席、左が説教壇
世界遺産「ヴィースの巡礼教会」、身廊から眺めた内陣。入口右の柱に取り付けられているのが修道院長席、左が説教壇
世界遺産「ヴィースの巡礼教会」、身廊の天井を飾るヨハン・バプティスト・ツィンマーマンのフレスコ画
世界遺産「ヴィースの巡礼教会」、身廊の天井を飾るヨハン・バプティスト・ツィンマーマンのフレスコ画
世界遺産「ヴィースの巡礼教会」、ロココ様式の内陣・主祭壇。中央上の祭壇画の下にイエスの受難像が安置されている
世界遺産「ヴィースの巡礼教会」、ロココ様式の内陣・主祭壇。中央上の祭壇画の下にイエスの受難像が安置されている

■世界遺産概要

オーストリア国境に近いドイツ南部の町シュタインガーデンの郊外にたたずむ教会堂で、正式名称をヴィースの聖霊降臨巡礼教会という。18世紀にイエスの木像が涙を流すという奇跡の噂が広まったことから巡礼者が集まるようになり、建築家ドミニクス・ツィンマーマンと画家ヨハン・バプティスト・ツィンマーマンの兄弟によってバイエルン・ロココ様式の見事な教会堂が建設された。なお、世界遺産登録時にはバッファー・ゾーンが設けられていなかったが、2011年の軽微な変更で設定された。

○資産の歴史

伝説によると1738年5月4日、農家のロリー一家はシュタインガーデン修道院から修道士たちによって彫られ、すでに祈りを捧げる者もいなくなっていた鞭打たれるイエスの受難像を引き取って自宅に持ち帰ったという。一家は寝室にこの木像を置き、日々の祈りを捧げていた。6月14日の夜、夫人のマリアは祈りの際にイエスの顔に水滴がついているのを発見した。翌朝も同じ現象が起こったため修道院長に報告すると、奇跡が証明されるまで沈黙を守るように指導された。しかし、涙の奇跡のニュースは瞬く間に広がり、多くの巡礼者が自宅を訪れるようになった。

やがてドイツのみならずオーストリアやボヘミア(チェコ西部)、イタリアなどから巡礼者が集まるようになったため、シュタインガーデン修道院は1740年にロリー家の近くにイエス像を収める小さな礼拝堂を建立した。しかし、病気が治ったという奇跡の噂も加わってその後も巡礼者は増えつづけ、礼拝堂はすぐに手狭になって本格的な教会堂の建設が計画された。

修道院長ヒュアツィンテ・ガスナーは教会堂の設計をドイツ・ロココ建築の第一人者であるドミニクス・ツィンマーマンに依頼し、1745年に建設が開始された。教会堂自体はナルテックス(拝廊)・身廊・内陣のシンプルな造りながら、内部は彫刻やスタッコ(化粧漆喰)細工・フレスコ画(生乾きの漆喰に顔料で描いた絵や模様)・絵画などで覆われており、建築と装飾が一体化した見事なロココ空間を作り上げた。1754年に完成・奉献され、1756年には聖ペトロと聖マグダレナの祭壇が設置された。ドミニクス・ツィンマーマンの教会堂に対する思い入れは強く、完成するとすぐ近くに居を移し、1766年にこの地で息を引き取ったという。

ナポレオン率いるフランスの侵入などの混乱を経て1803年にシュタインガーデン修道院が解散すると、一帯は新たに成立したバイエルン王国の版図に入った。バイエルン政府は巡礼教会の廃止や売却を計画したが、州政府や地元住民の反対で維持が決定された。

○資産の内容

ヴィースの巡礼教会は西から東へナルテックス・身廊・内陣が一列に並ぶ構造で、全長59.49mを誇る。ナルテックスはもともとエントランスに設けられた教会と外部を隔てる廊下で、聖俗の境を示し、信者でなくてもここまでは入ることができた。ヴィースの巡礼教会では身廊の西に小さな半円形のナルテックスが設けられている。

楕円形の身廊は全長29.27m・幅24.75m・高さ31.50mでもっとも大きな空間となっている。高さ約20mの天井に描かれたフレスコ画はドミニクス・ツィンマーマンの兄でバイエルンの宮廷画家ヨハン・バプティスト・ツィンマーマンの作品で、その見事さから「天から舞い降りた宝石」と讃えられている。トロンプ・ルイユ(騙し絵)の技法を用いて立体感を出しながらイエスや聖霊を示すハト、天使や使徒、永遠の門や審判の王座などを生き生きと描き出している。フレスコ画の周囲はヴェソブルンナー派の漆喰職人による白と金の精緻なスタッコ(化粧漆喰)細工や天使の彫刻・絵画で装飾されている。身廊には他に聖ペトロ祭壇、聖マグダレナ祭壇、修道院長席、説教壇、パイプオルガン、聖人像などがあり、いずれも繊細華麗な装飾で彩られている。

東に位置する内陣は聖域で、東端にドミニクス・ツィンマーマン制作の主祭壇が設置されている。赤や青のコリント式大理石柱、黄金のスタッコ細工、純白の天使像や使徒像で覆われており、ヨハン・バプティスト・ツィンマーマンの天井フラスコ、バルタザール・アウグスティン・アルブレヒトの祭壇画、そして奇跡を起こしたイエスの受難像のオリジナルが収められている。

教会堂に隣接して東に立つのは時計塔と聖職者の館で、一部が巡礼博物館として開放されており、関連の文物とともに受難像のレプリカを収蔵している。

■構成資産

○ヴィースの巡礼教会

■顕著な普遍的価値

○登録基準(i)=人類の創造的傑作

開放的な田園風景の中にたたずむヴィースの巡礼教会はロココ美術の紛うことなき傑作である。

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

ヴィースの巡礼教会は文化的・宗教的伝統の際立った証拠である。

■完全性

人里離れた孤立した環境の中で、ヴィースの巡礼教会は宗教的・建築的アイデアを自由に飛躍させて他に類のない教会堂を完成させた。資産は顕著な普遍的価値を表現するために必要なすべての要素を含んでおり、開発あるいは放棄といった負の要素も存在しない。

■真正性

資産はまったく手付かずで伝えられており、教会堂の形状・デザイン・素材・原料・機能・目的は変更されておらず、真正性は保持されている。

■関連サイト

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