マデリウ=ペラフィタ=クラーロル渓谷

Madriu-Perafita-Claror Valley

  • アンドラ
  • 登録年:2004年、2006年軽微な変更
  • 登録基準:文化遺産(v)
  • 資産面積:4,247ha
  • バッファー・ゾーン:4,092ha
世界遺産「マデリウ=ペラフィタ=クラーロル渓谷」、ペラフィタのボルデ
世界遺産「マデリウ=ペラフィタ=クラーロル渓谷」、ペラフィタのボルデ (C) Joan Simon_Multi-license with GFDL and Creative Commons CC-BY-SA-2.5 and older versions (2.0 and 1.0)

■世界遺産概要

ピレネー山脈に抱かれたアンドラの「心の故郷」といわれる渓谷群で、資産は国土の9%強を占めている。全体はマドリウ川の流域で、バッファー・ゾーンの東はフランス、西はスペイン国境に接している。なお、この遺産は2006年の軽微な変更でバッファー・ゾーンを拡大している。

○資産の歴史と内容

711年にイスラム王朝のウマイヤ朝がアフリカからイベリア半島に進出した。フランク王国が732年のトゥール・ポワティエ間の戦いに勝利してピレネー山脈以西への侵入は食い止めたが、イベリア半島のほとんどは征服された。フランク王国のカール大帝は805年にピレネー山脈にウルヘル司教を君主とするアンドラを設立してイスラム教勢力に対する楔とした。フランスのウォワ伯が異を唱えたため1278年に共同統治となり、アンドラ公国が設立された。1419年からはすべての自治体が参加する「コンセル・デ・ラ・テッラ」と呼ばれる議会が開催された。1278~1993年まで715年にわたってアンドラは公爵と司教をトップとし、議会で運営された(現在もフランス大統領とスペインのウルヘル司教を元首としている)。山岳地帯であったことから産業は発達せず、経済の中心は農業と家畜だった。こうした地形的・政治的・経済的要因がアンドラの山村風景を維持させた。

マデリウ=ペラフィタ=クラーロル渓谷は北を除く三方を分水嶺となる尾根に囲われた土地で、渓谷群は切り立っており、最高到達点は標高2,905 m、最低地点は1,055mで、この2点はわずか10kmしか離れていない。渓谷上部の高山帯には氷河や氷河湖が見られ、荒地や草原を経て温帯森林へと接続する。

人々はこの環境を上手に利用して生活を営んできた。主要な産業はヒツジやウシ、ウマ、ラバの牧畜で、主にチーズや乳などの乳製品を生産した。夏の間は「ボルデ」と呼ばれる高地の住居に住み、牧草地を利用して放牧を行った。ボルデは石造の小屋で、アーチで支えられた石造屋根を持ち、芝が葺かれている。隣に納屋を持ち、穀物や干し草が保管されていた。

渓谷下部の集落では段々畑を築いてライ麦や小麦といった穀物や干し草、一部ではブドウを栽培する農業が行われた。乳製品を加工する加工場などもあり、時代が下ると鉱物資源を利用した製鉄や川を利用した水力発電が行われた。渓谷にはエントレメサイゲスとラミオというふたつの主な集落があり、12棟の住宅が残されている。50年前までは定住者がいたが、現在は夏季のみの使用となっている。渓谷中央にある製錬所は13世紀にピレネー山脈で開発されたカタルーニャ式製錬施設の唯一の生き残りで、鉄鉱石は渓谷の斜面やフランスのラングドックから、木炭は周囲の森から調達して1790年まで利用されていた。

人々は渓谷から多くの恩恵を受けており、持続可能な自然の利用を実現するために住居や木炭のための伐採、家畜のための飼料採取などに規制を設け、自然を共同管理していた。こうした文化はアンドラ公国が成立する1278年より古いものと考えられており、20世紀後半まで700年以上にわたって引き継がれ、一部は現在でも存続している。こうした努力により森は守られ、氷河や牧草地・集落が調和した美しい文化的景観が維持されている。

■構成資産

○マデリウ-ペラフィタ-クラーロル渓谷

■顕著な普遍的価値

本遺産は登録基準(iv)「人類史的に重要な建造物や景観」でも推薦されていたが、ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は渓谷が人類史的に重要な建造物や景観を示しているとまではいえないとして価値を認めなかった。

○登録基準(v)=伝統集落や環境利用の顕著な例

限られた資源を有効に活用し、山の景観と調和した持続可能な生活環境を確立し、数千年にわたって引き継がれたピレネー山脈の生活様式の縮図である。700年超にわたる古代の土地管理システムも特徴的だ。アンドラという国の状況や、渓谷によって半ば孤立した環境が奇跡的にこの文化を存続させた。

■完全性

マデリウ=ペラフィタ=クラーロル渓谷の特徴は地理的および歴史的な独自性にあり、文化的・自然的価値が融合した文化的景観にある。資産は顕著な普遍的価値を構成するこうした要素をすべて含んでおり、法的に保護されている。

2004年の登録段階では保護には不安が残り、バッファー・ゾーンも不足していた。2006年の軽微な変更ではこれらが改善され、完全性が補強された。

■真正性

マデリウ=ペラフィタ=クラーロル渓谷は人と土地、自然と文化の関係と生活様式の比類ない証拠であり、際立ってよく保全されている。渓谷では人と自然の関係は明確で、環境とその象徴的な特徴に対する敬意を持った態度はけっして変わることはなかった。人々は山が提供する資源を感謝の気持ちとともに賢明に使用し、自然との長年の共生の経験に基づいて謙虚に利用している。

渓谷には大きな道路がなく、大規模な開発も行われていないため、文化的景観はほとんど無傷で保たれている。ボルデの修復も慎重に行われており、真正性は維持されている。ただ、周辺部の人口は急増して観光客も増えており、開発圧力は増している。

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