キロキティア

Choirokoitia

  • キプロス
  • 登録年:1998年、2012年軽微な変更
  • 登録基準:文化遺産(ii)(iii)(iv)
  • 資産面積:6.2ha
  • バッファー・ゾーン:67.5ha
世界遺産「キロキティア」
世界遺産「キロキティア」(C) A.Savin (Wikimedia Commons - WikiPhotoSpace)
世界遺産「キロキティア」、環状家屋トロス(復元)
世界遺産「キロキティア」、環状家屋トロス(復元)

■世界遺産概要

紀元前7000~前4000年紀にかけて築かれた新石器時代の集落跡で、「トロス」と呼ばれる円筒形の環状家屋を特徴とする。なお、この遺産は登録後の発掘調査や景観保護に対応して2012年に資産とバッファー・ゾーンが若干拡大されている。

○資産の歴史と内容

旧石器時代、紀元前9000年紀に狩猟採集民が近郊の大陸から上陸し、村落を築いた痕跡が発見されているが、まもなく放棄されたようだ。定住は紀元前7000年紀の新石器時代にはじまり、アナトリア高原(現在トルコのあるアナトリア半島の高原部)やレヴァント地方(現在のシリア・ヨルダン・レバノン・イスラエル周辺)の人々が移住したと考えられている。農業と牧畜を生業とする農民で、穀物を栽培し、ヒツジやヤギ、ブタを放牧していた。こうした家畜はアナトリア高原の種であることがわかっている。しかし、こうした集落は紀元前6000年紀の半ばまでに突如放棄され、約1000年間の空白期を迎えた。紀元前5000年紀にふたたび定住がはじまり、やはり穀物栽培と放牧が行われた。この時代の目立った建造物は発見されていないが、陶器の使用が開始されている。これらの文化もまた紀元前4000年紀に放棄された。

新石器時代の集落は海から6~7kmに位置し、マロニ川を見下ろすヴァシリコス渓谷の丘の上に建設された。最初の集落は丘の東に築かれ、最大で高さ3m・厚さ2.5mに及ぶ全長180mの石垣で囲まれた。やがて村の西に新たに全長60mの石垣を建設し、村が拡張された。

集落跡からは20棟の円筒形の環状家屋が発掘された。円筒の外径は2.3~9.2m、内径1.4~4.80mで、大きさも壁の厚さも一定しない。基礎はなく、地面から石灰岩や日干しレンガ、粘土が直接積み上げられている。壁の内外で建材を変えることもあり、内側に日干しレンガ、外側に石が使用されている。屋根は当初、石造のドームを冠していたと考えられていたが、木造の平板な屋根が発掘されている。

これらの家屋からは椅子や暖炉・挽き臼・骨の針・鎌などが発見されている。驚くべきは床下に埋葬の跡があることで、家族が亡くなると遺体の手足を折り曲げて床下に葬り(屈葬)、泥で塗り固められた。遺体の周囲には石や粘土の人形が置かれており、彼らの宗教観を物語っている。集落からは他に石器や陶器、置物、大麦や小麦・レンズ豆、イチジクやオリーブ、ヒツジやヤギやブタといった家畜や狩猟されたシカの骨などが出土している。

■構成資産

■顕著な普遍的価値

○登録基準(ii)=重要な文化交流の跡

先史時代、キプロスは近東からヨーロッパ世界に文化が伝播する途上にあり、きわめて重要な役割を果たした。キロキティアはキプロス最古級の遺跡であり、その証拠を伝えている。

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

キロキティアは際立ってよく保存された考古学遺跡であり、アジアから地中海世界への文明の拡散に関するきわめて重要な科学的データを提供している。また未発掘のエリアも多く、今後も多くの発見が期待されている。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

発掘された遺跡とキロキティアの未発掘エリアは共に地中海地域とその周辺の集落の起源を明確に示している。

■完全性

資産内で発掘された遺跡は手付かずで、集落の大部分を内包し、顕著な普遍的価値を表現するすべての要素が含まれている。こうした資産の完全性や無傷性は元の状態を保存するために政府が講じた措置や、1976年からキロキティアで発掘を行っているフランス国立科学研究センター(CNRS)の考古学ミッションによる科学的作業の成果である。資産内で行われる保全作業は遺跡の構造的安全性を確保するための建築資材の強化に限定されている。フランスの考古学ミッションによって丘全体で行われた電磁探査と発掘により、堅固な周壁によって囲まれた集落の全貌が明らかになった。

遺跡に対する開発圧力は土地の収用と管理区域としてバッファー・ゾーンを設定することで対処しており、2012年にはバッファー・ゾーンが拡大されている。

■真正性

発掘された遺構や遺物はキプロスでもっとも重要な新石器時代の遺跡を構成しており、地中海東部の文化の歴史を解明するうえできわめて重要である。これらは非常によい保存状態にあり、資産本来の価値を明確に証言している。敷地のごく一部しか発掘されておらず、保護区には将来世代のための貴重な未発掘エリアが含まれている。

一帯で行われている保全作業は状態を固定する建築資材の設置に限られており、遺跡は形状・素材・位置・配置といった点で真正性を維持している。訪問者がその価値を理解できるように5棟の環状家屋と石垣が復元されているが、遺跡の外に建てられており、内部では試みられていない。

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