スレバルナ自然保護区

Srebarna Nature Reserve

  • ブルガリア
  • 登録年:1983年、2008年軽微な変更
  • 登録基準:自然遺産(x)
  • 資産面積:638ha
  • バッファー・ゾーン:673ha
  • IUCN保護地域:Ia=厳正保護地域
世界遺産「スレバルナ自然保護区」の湿原とアシ原
世界遺産「スレバルナ自然保護区」の湿原とアシ原 (C) Esther Westerveld
世界遺産「スレバルナ自然保護区」、左の2羽はニシハイイロペリカン、点在している黒い鳥はカワウ
世界遺産「スレバルナ自然保護区」、左の2羽はニシハイイロペリカン、点在している黒い鳥はカワウ (C) Cody escadron delta

■世界遺産概要

ルーマニア国境に近いブルガリア北東部シリストラ州の町スレバルナ近郊に位置するスレバルナ湖を中心とした世界遺産で、湿地を隔ててドナウ川と隣接している。鳥類の楽園として知られ、約100種の営巣地であり、渡り鳥約80種が飛来している。コビトウ、メジロガモ、ウズラクイナ、オジロワシといった希少種も多く、特にニシハイイロペリカンについてはブルガリアで唯一のコロニーを形成している。

本遺産は世界遺産登録時点ではバッファー・ゾーンを有していなかったが、2008年の軽微な変更で設定された。資産の面積についても精密な測定が行われ、600haから638haに修正された。

また、本遺産は周辺環境の悪化によって1992~2003年まで危機遺産リストに搭載されていた。もともと湖とドナウ川は自然に結ばれていたが、1949年に建設された堤防で分断され、水路や水門などの人工的な手段によって水が供給されるようになった。上流のアイアン・ゲーツ・ダムの建設や、周辺地域における農業開発や都市開発によって農業用水や生活用水の需要が急増し、水位低下と土壌汚染、自然の季節的な氾濫の消滅、それらに伴う生態系の変化と鳥類の個体数の減少といった事態を招いた。UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の世界遺産センターは不可逆的な変化であるとして世界遺産委員会に世界遺産リストからの抹消の検討を要請するほどだったが、ブルガリアの依頼でまず危機遺産リストへ登載されることとなった。その後、湖への流入量を増やすための水路の建設や資産外の保護区の拡大、湖へ影響を与える農地や住宅地の廃止、鳥類の個体数の回復などが実現し、危機遺産リストへの掲載は解除された。

○資産の歴史と内容

世界遺産の資産として、スレバルナ湖と周辺の湿地が地域で登録されている。

一帯は1948年に国の自然保護区となり、1975年にラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)登録湿地、1977年には生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)に指定され、1983年に世界遺産リストに登載された。国の自然保護区と世界遺産の資産は完全には重なっておらず、自然保護区の中で農地など人間の活動が認められる地域は資産から外されている。その代わり、外された地域と、隣接するペリカニテの湿地の一部がバッファー・ゾーンに含まれている。

スレバルナ湖はドナウ川の南1~2kmに位置しており、湿地を通してドナウ川と結ばれている。ドナウ川の流量は4~6月の春にもっとも多く、この時期に氾濫を起こして周辺の湖や湿地に水を供給する。土壌は厚さ約14mのレス(黄土)で、砂・泥・石灰岩とドナウ川からの養分が生態系を支えている。

湖の水深は年や季節によって差が大きいものの、平均約2m・最大約3m、水域は120haほどで、アシ(葦/ヨシ)原が資産の2/3に迫る約400haを占めている。他にもアシの浮島やヤナギの浸水林(恒久的または季節的に浸水する森林)、沼地、島などが見られる。

保護区には2,748の種が生息しているが、これはブルガリア全土の湿地で確認されている種の53%に及ぶ。このうち1,430種が植物で、アシ原を作るイネ目イネ科ヨシ属のヨシを中心に、ミズクサと呼ばれるイネ目ガマ科ガマ属のホソバヒメガマ、浸水林を形成するキントラノオ目ヤナギ科ヤナギ属のセイヨウシロヤナギやサリクス・キネレアなどが主要種となっている。

動物相でもっとも特徴的な種が鳥類で、約50,000羽が生息し、233種が確認されており、約100種は繁殖を行うための営巣地としている。ブルガリアでもこの地でのみ繁殖している種も多く、保護区を代表する種であるニシハイイロペリカンをはじめ、ダイサギ、カワウ、メジロガモなどが挙げられる。他にもコビトウ、ゴイサギ、コサギ、カンムリサギ、ヒメヨシゴイ、ブロンズトキ、ヘラサギ、ウズラクイナ、ノガンなどにとっても重要な営巣地だ。また、保護区は黒海=地中海フライウェイと呼ばれる渡りのルート上に位置することもあって渡り鳥が多く、約80種が含まれている。中にはコブハクチョウやマガン、オジロワシのように越冬するために飛来し、春になると北へ飛び立つ渡り鳥もいる。特にアオガンにとって最大の越冬地となっている。IUCN(国際自然保護連合)レッドリストの危急種(VU)であるアオガンやノガンのように、絶滅を危惧されている種も少なくない。

保護区には41種の哺乳類がおり、ユーラシアカワウソ、ステップケナガイタチ、マダライタチ、ヨーロッパヤマネコといった肉食動物も少なくない。他にも魚類18種、爬虫類15種、両生類12種などが生息しており、豊かな生態系を築いている。

■構成資産

○スレバルナ自然保護区

■顕著な普遍的価値

○登録基準(x)=生物多様性に富み絶滅危惧種を有する地域

スレバルナ自然保護区は過去にブルガリアで広く見られた湿地の重要な例であり、次第に絶滅の危険度を増している多様な植物種や動物種の生息地である。この湿地は数多くの鳥類にとって重要な繁殖地・営巣地・越冬地であり、アシの浮島やヤナギの浸水林は彼らに重要な繁殖地を提供している。湖の北端ではアシ原が徐々に湿った草原に変化し、湖の北西端とドナウ川沿いではセイヨウシロヤナギの古木が点在する水系森林が広がっている。

スレバルナ自然保護区の国際的重要性の基礎は豊かな鳥類の生態系にあり、資産はいくつかの種について種の存続に不可欠とされる個体数を抱えている。一例が、ブルガリアで唯一コロニーを形成しているニシハイイロペリカンであり、国際的に絶滅が危惧されている4種、コビトウ、メジロガモ、ウズラクイナ、オジロワシについては最大個体数を誇る繁殖地でもある。スレバルナはまたヒメヨシゴイ、ゴイサギ、カンムリサギ、コサギ、ダイサギ、ムラサキサギ、ヘラサギ、ブロンズトキ、アカツクシガモのヨーロッパにおける重要な生息地であり、3種のアジサシも生息している。国際的に絶滅の危機に瀕しているコビトウとアオガンは保護区で越冬し、またマガン、ハイイロガン、ノハラツグミの越冬数も多く目立っている。

総合的に、資産は173種の鳥類を支える重要な生息地であり、そのうち78種はヨーロッパの保護種で、9種は国際的な絶滅危惧種に指定されている。

■完全性

資産はドナウ川沿いの湿地帯における排水処理後に残された最大の湖を含み、1949年に堤防が建設されるまでは川と直接つながっていた。そのため現在の環境は完全に自然なものとはいえず、人工的に水を管理することで維持されている。1994年には春の数か月の間、ドナウ川の水が湖に流れ込むように湖とドナウ川を結ぶ水路が建設された。一帯は厳重に保護されており、内部では慎重に管理された科学的調査と保護管理活動のみが許可されている。資産は比較的小さいため単独で主要種を維持することは難しく、周辺地域、あるいは鳥の渡りのルート上にある他のエリアが保護されてこそ保護区の主要種の維持が期待できる。

資産は2008年に設定された673haのバッファー・ゾーンによって保護されている。これはスレバルナ自然保護区のうち世界遺産に含まれない部分と、その周辺でペリカニテと呼ばれる隣接の保護区内に当たる419haの土地を含む。このバッファー・ゾーンの目的は保護区における人間の負の影響を防止・軽減することである。

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